LYE の League of Legends メモ

League of Legends プロリーグ LCS の解説を翻訳したり、同作や MOBA ジャンルで使われる英語を説明したりする予定。

私見:Eyes on WorldsとK/DAに見る変化について


国際大会のドキュメンタリー?

ライアットはここ3、4年ほど国際大会、特にWorlds開催のたびにプレイヤーやチームにフォーカスしたドキュメンタリー動画を制作してきました。どれも非常に良いデキで、最近は日本語字幕付きで公開されるようになったことから楽しみにしている人も多いのではないかと思います。

今年の「Eyes on Worlds 2018」もWadid選手のEp 1で感動した人、あるいはEp 2でBwipo選手がC9をディスっているシーンを見てガチギレしたC9ファンも多かったのではないでしょうか。

公式動画の呪い

一方でこの一連の動画たち、紹介されたプレイヤーのいるチームが敗退する結果を見て「公式動画の呪い」などと言われることもあります。

今年はもちろんとして、フィーチャーされたのにWorlds出場を逃したRekkles回、結局ほとんど出場機会に恵まれなかったChawyなど思い出すだけでもポンポン出てきます。

もちろんそれは都市伝説でありジンクスなのですが、たとえばアメフトリーグNFLを題材にしたゲーム「Madden NFL」でも最新版の表紙になったプレイヤーは不調になる「Maddenの呪い」というものが囁かれたりしていました。長い歴史の中ではゲームの発売と時期を同じくしてシーズンを棒に振る怪我をした選手が数人いるほどで、本気で呪術の存在を信じかけるレベルでした。それもMadden NFL 2018で超スター選手Tom Bradyが呪いを笑い飛ばすかのように活躍するまでの話ではありましたが。

アプローチの変化

いずれにせよ、そしてMaddenのカバーほどではないにせよ、これから結果が出る事柄に対してドキュメンタリーを先出しするというのはなかなかリスキーな行為です。そしてRiotはそれを認識したのか、今年のWorldsから少し異なるアプローチを取っています。

今までのように「これからの活躍を期待したい選手の人生を追いかける」のではなく「あの激戦の舞台裏はどうだったのか、選手の人生の軌跡を追いかける」ようになってたのです。

たとえばWadid選手を取り上げたEp 1は準々決勝でRNGと対戦した後に公開され、その戦いに込められていた意味が紹介されました。Fnaticの場合は欧米勢の雌雄を決する対C9戦を圧勝した後に動画が公開されています。

だから?

フーン、だから?と思うじゃないですか。でも、ちょっと考えてみるとかなり大変なハズなんです(それでもフーンと思う人が大多数なのは承知の上で進めます)。

 

結果が出てすぐにリリースしているので、これまでのように「コイツ追いかけよう、ドラマあるし!」と事前に決めて取材するわけにはいかないのです。この2チームの対戦をEyes Onで取り上げよう!と思ったら、両方のチームをインタビューし、その生き様を動画で撮影し、B-roll(間にぶち込むそれっぽい映像)も両方撮っておき、勝敗が着いてから一方のストーリーを組み上げてすぐに完成させ、翌週にはリリースする、と。


社会人の方だったら、仕事がそんなふうに振ってくるの想像するだけで変な汗が出そうです。

これまでなら今日はエビフライ定食を作る!と決めてただエビフライ定食を作ればよかった。それでも相当な労力と技術が投入されているわけですけど。

でも今年は、エビフライ定食または生姜焼き定食どちらの注文が入るかギリギリまで分からないけど注文入ったら即提供してね、くらいの厳しさはあったと思うんです。

音楽やB-rollなどは共有可能なものがあるでしょうけど、それを速攻で(あるいはある種即興で)きちんとした物語として完成度を高めていく必要があるわけで、かなり離れ業だったんじゃないかなと思ってます。

これまでは観戦の動機付けコンテンツだったのが、ある程度まで観戦したこと前提のコンテンツに変化した、とも言えるでしょう。

ターゲットが変わった?

僕も途中まではなるほど賢いムーブだけど大変だね、と思っていたのですが、ふと思い浮かんだことがあります。これって想定視聴者が変わっているよな、という点です。

要するに、「知らない選手かもしれないけど、こんなドラマがあるから応援してよね!」というご新規さんに優しいアプローチから、「はい皆さん名前はご存知でしょうけど○○さんの紹介です、先日の激戦の裏ではこんなことがあったんですよ」という常連さん向けアプローチへの変化です。

もちろん反証として「でも勝者をフィーチャーしているから次の試合で応援する上ではご新規さんの役に立っている」は思いっきり成立します。しかし興行に関係する動画制作において、視聴動機を高められる要因を減らす判断なので、やはり半分くらいはターゲットが「常連さん」に向き始めたのではないかと考えるわけです。

僕はRiot社内で、少なくとも英語圏ではこのシリーズのターゲット層を常連さんにしたんじゃないかなと思っています。言い方を変えれば「もはや視聴者層はある程度定着している」と判断した、と(何度も繰り返しますが全部推測です)。

K/DAの存在

そして今年はサプライズとしてK-POPユニットK/DAがデビューしました。ものすごく盛り上がっていますよね。

個人的に、今年のWorldsはドキュメンタリーで常連さんに特化した物を作りつつ、ざっくり追っかけているファンにはK/DAで訴求する作戦だったのかな、と思ってます。

上手やな…。

結び

もし僕の想像が正しければ、今後のドキュメンタリーシリーズも同様の手順を踏襲しつつ(次回はEyes on MSIか)、大会合わせでeSportsとは直接関係のないサプライズ(もちろんWorlds以外は今回ほどの規模ではないにせよ)を何かしら展開していくのではないかなと思っています。

そして今まではご新規さんと常連さんの両方をドキュメンタリー動画ひとつで対処しようとしていた姿勢から、二本柱にシフトさせていくのかなと。

他のメーカーと違ってコンベンションを開かない分、そういう形で全方位的な配慮をすると判断したのかもしれない、というのはちょっと穿った見方かもしれませんが。

もしそうなったら、ぜひもっと尖った、ご新規さんを今よりも少し置いていってでも深いコンテンツを期待したいですね。個人的には日本ファンはとても練度が高い(初心者・カジュアル層が全然足りていないとも言う)と思うので、この傾向は歓迎されやすいんじゃないかと思います。

あとは我々が、WorldsグループステージのインタビューでTusiN選手が言ってくれたように、「日本のLoLシーンを応援して」いきつつ、日々ランクを回すなり、観戦勢としてワイワイ応援していくのが良いのかなと。

そして願わくばもっとご新規さんが増えてくれますように。

蛇足

Riotという会社は今年、各種大会の会場規模を小さくしたり、アナリストデスク・MVP・リプレイコーナーのネーミングライトをスポンサーに提供したりと、サステイナビリティ(持続可能性、要するに赤字バンバンで続けなくても継続できる体制)を重視した方針を打ってきていると思っていて、それは時流・興行規模・シーンの健全性のすべてにおいて大変喜ばしいことだと考えています。

そして、同時にコミュニティとのコミュニケーションのとり方も変わっていくのだろうと思っています。

Ask RiotにせよNexus Webサイトにせよ、ライアットはもともと他の会社と比べて「情報はすべてのプレイヤーが一元的に見られるようにするべき」という姿勢が強い会社だと個人的に思っているのですが、今後はこれを「直接イベントに参加してくれた人だけが得られるのはその場の熱気と空気感」のみ、それ以外はネットで視聴する人たちが満喫できるようフルコミットしていくという流れを作っていくのかなと。

そうすると、今年のAll-Starにコミュニティの著名人を招く発表があったのも頷けます。お祭り部分ではご新規さんが楽しみやすいよう配慮を、常連さんにはお祭りならではのドリームマッチを提供しよう、ということです。昨年までは、プロ選手にお祭りをすべて任せていたため、どっちつかずになってしまっていた部分もあるのではないかと。

 

一元化による効率化というと仕事の経験から苦い顔をしたくなる人も多いと思いますが(僕もそうです)、これは筋が良いやり方に見えます。すべてがうまく機能して、今まで以上に盛り上がっていくLoLシーンに期待したいところです。

なお再三申し上げておりますがこれはすべて僕の想像であり何の裏も取れていません。ぜんぶ多分の話です。

 

そして何でこんな想像をこんな長文で書いたのか、書き上げた今となっては動機が思い出せません。Riotがんばってるなー、考えてるな―、試行錯誤して新しいことトライしてるなーと思ったから応援したかったのかな。現場からは以上です。

 

追伸:今日振り分け戦が終わり、3年連続シルバーIIでした。お疲れ様です。