Breaking Point(限界点):Team Liquidドキュメンタリー 要約&私的感想
Worldsが終わって皆がオールスター楽しみだねーってなってるところに、HTC Esportsチャンネルがとんでもない赤裸々ドキュメンタリーを投下してきたので、急遽紹介します。
動画の題名「Breaking Point」の訳は(我慢などの)限界点、破壊点。
チームの内情が落ち着いていないことを示す噂の多かったTeam Liquidが、2016年シーズンを赤裸々に振り返ったドキュメンタリーになっています。
まずは、Team Liquidって今年どんな感じだったっけ?という方のためにおさらいを。
今年TLの成績:
- Spring Split:4位
- Spring Playoff:4位
- Summer Split:5位
- Summer Playoff:5/6位
- Regional Qualifier:初戦0-3で敗退(Worlds出場の最後のチャンス)
つまり、NA LCSの中堅どころ。 また、今年は以下のようなニュースがありました
- Dardoch選手、Piglet選手、LocoDocoコーチの不仲説浮上
- Dardoch選手、Spring Split開始直前に態度が問題としてチームから謹慎処分を受ける
- Piglet選手、途中でNA CSチームTLAに降り、その後NA LCS昇格戦で敗北して帰国
- Dardoch選手、最終的にTL→Echo Foxへ移籍
100分? 長い。結局、何が描かれている番組なの?
- Dardoch選手、LocoDocoコーチ、Piglet選手、Fenix選手それぞれの苦悩
- Matt選手、Zig選手、Lourlo選手他、TL/TLAで活動する選手やスタッフそれぞれの思い
- eSportsのプロチームという環境の生々しい現実(のひとつ)
- 基本的に時系列で出来事を追いかけている
これだけでは内容がサッパリなので、以下に駆け足でハイライトをまとめてみます
ざっくりハイライト
- Spring Split前に、チーム初となる韓国合宿を行った
- しかしそこでチームの人間関係が修復不可能なほどこじれてしまった。理由としては…
- NA LCSのチームが日常的にスクリム(模擬戦)する相手は同じLCSチームと、CSチーム。つまり、LCS上位でなくても、格下相手に練習することが多いため勝率はある程度高くなる
- しかし韓国で対戦した相手はことごとく自分たちよりも強く、とにかく負け続けた
- 韓国合宿を行ったチームは、そこで結束を強め課題点を洗い出し強くなるチームと、自信をズタボロにされて調子を崩すチームに別れる傾向がある
- Liquidの場合、後者だった。各選手が不満を溜め込んでしまい、それがDardoch選手とLocoDocoコーチ、そしてPiglet選手の間に大きな亀裂を生み出してしまう
- 通常ならばオーナーであるLiquid112氏も一緒に行って、そういった「修復不可能な問題」が起こる前に対処するのだが、その時はビジネス上どうしても外せない商談があり欠席した。
- もちろんビデオチャットなどはしたが、効果は不十分だった
- 韓国合宿中はPiglet選手の態度も士気に影響した
- カリフォルニアにいる時は親しい友だちがImpact選手くらいで、ほとんど孤独に過ごしていた。彼女も友だちも韓国にいたから
- 韓国合宿ではその反動で、合同練習時間が終わると友だちや彼女に会いに行ってしまった。これがチームメイトの、特にDardoch選手の不満の種となった
- Dardoch「俺が手首の怪我をおしてまで一日16時間練習してるのにPigletが合同練習終わるとさっさと遊びに行くの本当に苛ついた」
- もちろんPigletは合同練習ではモチベーション高くしっかり練習はしていたそう。ただ、「韓国合宿に熱心に取り組む」ことの定義が彼と他のメンバーで乖離していたのも事実だったと語る
- またDardoch選手本人が、Pigletを選手として尊敬しているし、ゲームが終われば友だちとして付き合えていたと語る。ただゲーム中になると、感情が強く出過ぎてしまい、彼いわく「自我が勝手にしゃべりだす」状態になってしまうのがで軋轢が生じてしまったと語る。それを今は悔いている、とも
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LocoDocoコーチとDardoch選手の関係はさらにひどかった
- 売り言葉に買い言葉で口論になることがしょっちゅう。映像を見ていても特にDardoch選手の口から「Bullshit」(事実でない、たわごと)や「Fucking」といった単語が連発されていた
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これを重く見た経営陣が、Spring Split直前にDardochの謹慎処分を決める。
- Dardoch選手としては「俺がいなくなることで俺の価値を認めざるを得なくなるだろう」と考えた
- チームとしては、チャレンジャーチームTeam Liquid Academyでジャングラーとして活躍していたMoon選手にLCSのステージ経験を積ませるいい機会になるし、本人も乗り気だったので、いいだろうと考えた
- Dardoch選手の態度にオーナーも苦労していたが、ことさら難しい問題だったのが「彼がチームで最も重要なプレイヤーである事実」だった
- オーナー「彼を失うことは、結局他のチームに優れた選手を渡すことであり、自チームの弱体化でもある。それは経営上優れた判断とは思えなかった」
- オーナー「結局Dardoch選手を外すことで、LocoDocoコーチ含め他のメンバーに、(Dardoch選手を外すことで彼の態度という問題ひとつを解決するのではなく)彼を戻した上で各種チームの問題を修復していくのが良いと感じてほしかった」
- 結局Moon選手の成績は振るわず、謹慎後はDardoch選手が復帰、その後は勝ち星を伸ばした
- しかしDardoch選手とPiglet選手はSplit通じてゲームのメタ理解に相違があった。Dardoch選手がトップ重視メタだと感じていたのに対し(LYE注:これは実際に当時の解説者もそう言っていた)、Piglet選手はボット中心のメタだと考えていたからだ
- この点で両者が合意に至ることはなく、結局ゲーム中にもその意識の違いから連携にミスが出ることがあったし、その結果失敗すると両者の溝はさらに深まった
- またDardoch選手の傍若無人ぶりは変わらずで、LCSステージ上で「もうこの試合負けだわ さっさと負けて次の試合に行こうや」などと発言しており、これがさらにチームの不和を生んだ
- この発言は特にPiglet選手の気持ちを萎えさせた。結果、彼はチャレンジャーチームであるTeam Liquid Academyへの移籍を願い出る
- Piglet選手は「自分がSKTを去った理由は、今のTLのようにチームの雰囲気が悪かったから。自分はこんな環境でプレイしたくない」と言っていたと紹介されている
- このとき本人は「自分が不在になることで、チームメイトは自分の選手としての価値を再認識するのではないか」という期待があったとも明かしている(代役で入ったfabbbyyy選手がユーティリティプレイヤーとしてチームと連携を見せたので、この目論見は直接的には失敗だった)
- いざTLAに移籍してみると、Piglet選手は笑顔を取り戻す。「ここは雰囲気がいい。チームとしての団結力もある。誰もが自分の声に耳を傾けてくれるし、選手としての自分に敬意を払ってくれる」と語る。最初の数週間のあいだは…
- しかしやがてPiglet選手は状況に不満を抱えるようになる。チームは、一番のベテランである彼にリーダーとして振る舞うことを求めたが、彼は「僕はリーダーじゃなくプレイヤーだ」と話す。「自分はすぐ怒りすぎるんだ」とも。一時は士気が低下したが、それでも彼は自らを奮い立たせてTLAを引っ張っていく。
- その後もDardoch選手は変わらず
- チームの前で「俺がフルタンクレク=サイなのにAoE持ちキャリー2人よりダメージ出してるとかおかしいだろ?それなら5対5のピックじゃなくて俺にキャリーチャンピオン取らせろよ」などと発言、チームメイトは沈黙
- Lourlo選手とDardoch選手の関係
- ふたりはトップとジャングラーということもあり、ゲーム内でも密に連携を見せていたし、また友人としても非常に上手くやっていたという(両者が「チームで一番の親友だ」とそれぞれ言っている)
- Lourlo「Dardochのおかげで、自分はプレイヤーとしてものすごく成長できた。本当に感謝している」
- Dardoch「Lourloと俺は親友だ。親友だから、成績が振るわない時は"大丈夫、お前よくやってるよ"とかじゃなく、正直に"最近のお前ひどいぞ"って言ってた。それが言える間柄だった」
youtu.be 物凄く仲の良い二人の様子
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オーナーとの口論(に近い話し合い)でのDardoch選手の発言がとても印象深い。オーナーから態度に対する注意を受けて:
- 俺はプロだ。チームで一番練習もしてる。だからこそチームメイトが熱意に賭けてて、練習不足で、Diamond 5みたいなプレイをし続けるんだったらそれは許容できない。プロ意識の欠如だ。
- 俺はこのチームで一番Worldsに行きたがってる。俺はこのゲームのプロになるために普通の人生を諦めて、高校だってファッキン中退してるんだ(確かMatt選手もそうだったと思う、とも述べていた)。人生賭けてる。中途半端な気持ちでやってるわけない。
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ある日、Dardoch選手はEcho Fox行きを決める(どちらが先にコンタクトしたのかははっきり言われていなかった)
- Dardoch選手は親友だったLourlo選手にそれを告げた
- Lourlo選手はそれを「人生で一番つらい一夜だった」と振り返る。たくさん泣いたと
- Dardoch選手とPiglet選手が抜けた後はFenix選手とLocoDocoコーチの関係も悪化、Fenix選手の士気低下が顕著になる
- Loco「試合中にもっと発話しろ発話しろって言ったってしかたないだろう?もっと生産的な言い方があるはずだ」
- Fenix「俺が何言ったってアイツら黙っちまうんだからしかたないだろ」
- Fenix「俺はただ、きちんとレーン戦ができて、ゲーム中に発言できて、練習ちゃんとやる仲間とプレイしたいだけなんだ」
- Echo Fox移籍後のDardoch選手「Pigletのことは兄貴みたいに思っていた。今、こういう状況になってしまったけれど、また友人に戻りたいと思うよ。あの時、"自我が勝手に喋る"真似ばかりして彼との絆にヒビが入ってしまったことは今でも後悔している」
- TLAコーチDavid Lim氏(次期TLヘッドコーチ)の発言がすごくかっこよかった
- 結局、それぞれが今年の反省を胸に、新しいスタートを切るのであった…おしまい、という締め。
LYE的まとめ
いきなりですが、このドキュメンタリーのテーマのひとつは「コミュニケーション不全」だと感じました。eSportsシーンの厳しさ云々の前に、どうやって他者と円滑にコミュニケーションできるか、ということの大事さを繰り返し強調されていたからです。 僕自身、これまでNA LCSの解説を聞いて「外国人(韓国、中国)選手との意思疎通が課題」という話や「○○選手はだいぶ英語も上達して意思疎通できるようになってきたそうですよ」みたいな話は時折聞いていたので、各チームの非ネイティブ英語話者が苦労しているということは知っていました。それにしても、実際に彼らが外国語で意思疎通を図っているところを見ていると、これはゲーム中もそれ以外でも相当にストレスが溜まるだろうなと感じました。自分自身が英語が不自由な時期に、自分の主張をきちんとできずイライラを募らせた経験があるので、かなり具体的に想像できたところであります。
自分が怒っている時に思っている以上のこと、あるいは思ってもいないことを口走ってしまうことは母国語でもあると思います。それを外国語で行おうとすると、どうしても無言になってしまうか、本当にやりすぎてしまうかになりがちなのです。Piglet選手とFenix選手については、その点本当に同情せざるを得ませんでした。
もしもPiglet選手とFenix選手の英語が過不足ない程度まで上達した状態でチームに入っていたら、もっと違った結果もあり得たのではないかと思います。Piglet選手が英語でリラックスして会話でき、友人も作れたでしょうし、フラストレーションが溜まった時に、その場でそれを「十全に」表現することもできたでしょう。Fenix選手も、自分の気持ちを強調するのにいたずらに「ファッキン」を連発させず、もっと建設的な発言もできたかもしれません。そう考えると、やはり言語の壁というのはとても大きなものだなと感じました。
スポーツ選手という「旬の短い」職種でなければ…学生や研究者のようにみっちり英語を身に着けてから渡米するという選択肢もあるのでしょう。しかしeSpotsにおける外国人選手は即戦力だからこそヘッドハントするのであり、また実戦から遠ざかることがすなわちキャリアの緩やかな死に繋がりかねないわけで、そういった時間を割くことは今後もおそらく難しいと思います。能力だけではなく、性格的な部分での見極めをしっかり行っていく以外に、今のところ方法はないように思いました。
また、コミュニケーション不全を引き起こした第二の要因には「感情制御の難しさ」があると思います。
動画中でMatt選手とDardoch選手が別々の文脈で「自分たちは"普通の生活"を諦めて、燃えるような熱意を持ってプロ活動している、普通ではない人間だ。その人材に、普通の人のように感情を制御して動けと言われても難しい」というような内容の発言をしていました。これは確かにそうなのかもしれません。しかし一方で、たとえばMatt選手は「ウチはスクリム(模擬戦)で負けたら腐るし、他人を避難しだすけれど、CLGは違うらしい。あそこは負けてもきちんとみんなで試合を見直して、教訓を得て、生産的に前に進もうとする雰囲気があるらしい」と述べていました。つまり、(当然の話ではありますが)プロだから感情を制御できないなんてことはないわけです。むしろ強豪ほど、メンタルをしっかりコントロールしているというのは今年のWorldsを見て誰もが感じたことではないでしょうか。
実際に動画中のDardoch選手とLocoDocoコーチの会話を聞いていると感情的で喧嘩腰な物言いが目立ちます。そういった雰囲気の中では他の選手達も皮肉や無言、あるいは同じく喧嘩腰の言動しか見せなくなっていました。これは、チームの文化であったり、コーチの人柄であったり、それまでに構築してきた信頼関係なのだと思います。成績がすべての勝負の世界ですが、David Lim氏が述べているように、eSportsチームは「選手がベストな環境でプレイできるように全力を尽くすこと」を最重要課題のひとつとして認識しなくてはいけないのでしょうね。上を目指すのであれば、特に。
乱暴にまとめれば、このドキュメンタリーは「Team Liquidの今年の失敗まとめ」です。そこから何を得るかは、受け取り手が何をしている人かによって全然違うでしょう。チーム運営をしている人ならば直接的な教訓を得られるかもしれませんし、僕のようなファンボーイであれば、そうだったのか…とチームに対する思い入れに変化(それが良い変化かどうかは別)をきたすでしょう。ひとつだけ言えるのは、これを公開するのは相当勇気が必要だったはずだということです。公開してくれたTeam Liquidに拍手を。
繰り返しになりますが僕は単なるLCS / Team Liquidファンボーイです。Team Liquidが今年の経験を活かし、来年度に見事に復活してくれることを祈っております。なおこれを見てLYEはDavid Limコーチが大好きになりました。これは来年、本当に期待できると思いますよ。